探求の光(第14話)
助けるか、助けないかは問題ではない
ある街を通りかかったとき、路上にひとりの商人がいた。すでに若くはないが、かといって年寄りでもなく、台車いっぱいに積んだ果物を売っていた。ところが、人々はただ通り過ぎるだけで、だれも買おうとはしなかった。私はしばらくその光景を見つめて、哀れに思い、果実を1個だけ買ってその場でかじりながら、彼の話に耳を傾けた。すると彼には3人の小さな子供と妻と病気の母親がいて、お腹を空かして彼の帰りを待っているのだという。なのに、果物がまるで売れないので、いったいこの先どうしようかと悩んでいるのだという。いっそのこと死んでしまった方が、どんなに楽であろうかと毎日考えているというのだ。
私は思った。自分も裕福ではないが、今ならポケットにいくらかのお金が入っている。これを彼にあげれば、少なくても今日だけは家族のために食べる物を買って帰ることができるだろうと。
すると、天使が舞い降りてきた。もちろんその姿は、私にしか見えなかったが。そして右の天使がいった。
「助けてあげなさい。相手の辛い気持ちを自分のことのように理解して」
すると、すぐさま左の天使がいった。
「助けてはいけません。相手の魂の声に耳を傾けるのです」
私はいった。「魂の声というけれど、私にはそんなものは聞こえませんよ」
すると天使は、私に向かって手をかざした。すると、そこから星くずのようなものが現れて、私の顔に降り注いだと思うと、不思議なことが起こった。
苦悩しているあの商人の頭上で、同じ商人の姿をしていながらも、比較にならないくらい高貴な輝きに溢れたもうひとりの存在が見えたのである。天使がいった。「あれが、この男の魂の姿なのですよ」
彼の魂は、苦悩している自分自身に向かって「耐えなさい。耐えて自分の力で乗り越えなさい」といっているのが聞こえた。左の天使がいった。
「わかりましたか。もしも彼を助けたら、せっかくの成長の機会が失われてしまうのです。だから、むやみに助けてはいけないのです」
すると右の天使がいった。
「いいえ、人はお互いに助け合わなければなりません。もしも愛を持って助け合わなければ、この世にお互いに存在している意味がどこにあるというのですか」
そうして、ふたりの天使は喧嘩を始めたのである。私は、天使が喧嘩をするのを初めてみた。そしていった。「君たちも喧嘩をするんだね」
すると天使は、我に返ったように喧嘩をやめていった。
「あなたには、ふたりが喧嘩をしているように見えるかもしれませんが、本来はひとりの天使なのですから、別に喧嘩をしているのではないのです。これは、あなた方の立場でいうところのジレンマなのですよ。つまり、本当は助けてあげたい、けれども、助けてあげない方がその人のためになるってね。でも、その苦しい心情を思えば、助けてあげたいって。こうしてわたしたち天使も、ときどき悩むことがあるのですよ」
私は、どうすべきか迷った。魂の意志を尊重すべきか、あるいは、実際に家族を抱えて苦しい立場にある、この目の前の人間の立場を思いやるべきなのかと。
結局、私はこの男にポケットのお金をあげた。男は目に涙を浮かべて喜んでいた。
だが、私はあまり嬉しくなかった。これによって、私は彼の進歩を遅らせてしまったのかもしれないからだ。私は罪の意識を感じながら、その場を後にした。自分のしたことは正しかったのだろうか? だが、私には、何もせずに彼のもとを去ることはできなかったのだ。もしも私が罪を犯したのであれば、私はその罪を一生背負いながら生きていくことにしよう。
そう思いながら歩いていると、目の前の空中に、さきほどの男の魂の姿が見えた。私はギクリとした。
だが、その男の魂は、私に向かって丁寧に頭を下げ、喜ばしい笑顔をしながら消えていった。これはいったいどういうことなのか? 魂は、私が助けないのを望んでいたのではなかったのか?
すると、再び天使が舞い降りてきた。
「助けるとか、助けないといったことは、問題ではなかったのですよ。あなたは忘れたのですか? すべてのこうしたジレンマを解決する唯一のものは、愛だということを。愛を持っておこなった行為は、それがいかなる選択であろうとも、常に正しいのです。あの男はすばらしい成長を遂げることでしょう」
私は問い返した。「では、あの男の魂の予測は間違っていたということなのですか?」
天使は笑いながら答えた。「いいえ、あの男の魂の予測は間違ってはいませんでした。どんな魂も、いつだってわかっているのですよ。愛がすべてを決めるのであると。あなたが愛をもって選択したことで、まったく別の世界が創造されたということなのです。あの男の魂は、(この新たに生まれた世界では)こういっていたのですよ。この男にお金を与えてください。そうすれば成長しますからってね」