探求の光(第17話)
真の探求者なら、いかなることからも教えを学ぶ
目の前に大きな川が立ちはだかっていた。私はそばにいた「渡し守」にお願いして、向こう岸まで舟で運んでくれるように頼んだ。渡し守は快く引き受けてくれた。二人を乗せた舟は、おおらかにそのからだを前後に揺らしながら、ゆっくりと大河を渡っていった。渡し守は老いていたけれども、その腕前は確かで、オールを巧みに操りながら舟を進めていった。波打つ川は、銀のウロコのように光を反射して、まるで川そのものが巨大な魚のように思われた。
「長い間、こうして渡し守をされておられるのですか?」
私がそう尋ねると、彼はいった。
「ああ、そうじゃよ。もうずっと長いこと、わしはこの仕事をしているよ」
私は思った。長い間、同じ場所で、しかもこんな単調な仕事だけをしているなんて、自分には耐えられないと。私はこの世界のあらゆることを見聞し、そこから真理に至る道を見いだしたいのだ。同じ場所で、同じことをしていたって、精神的な成長なんてありはしないだろう。すると老渡し守がいった。
「みなされ、川はいつも変わらない姿をしている。けれども決して同じではない。川は常に変化しておる、それでいて変わらないのじゃよ。わしのいう意味がわかるかね?」
もちろん。つまり、川の形状は変わらないけれども、水が流れているから、その点では常に変わっているということだろう。だから何だというのか、当然のことではないか。
「ええ、わかりますよ、でも、それがどうしたというのですか?」
私がそういうと、渡し守はそれ以上何もいわず、、ただにっこりと笑っただけで黙ったままだった。
そして道を歩んでいると、二人の天使が降りてきた。右の天使がいった。
「あなたは、それでも道を探求する人なのですか? あの渡し守が、単に川の特徴をいうために語りかけたとでも思っているのですか? あれは教えだったのですよ。道を求める人であれば、いかなるささいな言葉の中にも、そこに教えを見いだすものなのです。あなたは何て愚鈍なのでしょう!」
私には、まだ何のことだか、よくわからなかった。左の天使がいった。
「あなたは、世界中を旅し、動き回ることが探求であると思っています。けれども、あちこち動き回れば道を発見できるわけではないのです。あの渡し守のように、同じ場所にいたって、探求する心があれば、そこから常に学べるのですよ。よろしいですか。真の探求とは、変化の中に不変を発見すること、また不変の中に変化を発見することにあるのです。あなたのように、体も心もフラフラと、対象と一緒に流されているようでは、何も発見できません」
再び右の天使が私にいった。
「あの渡し守の言葉だけではなく、そのふるまいからも、あなたは学ぶべきでした。彼は、川の流れを見事に操って、あなたを向こう岸にまで運んだのではありませんでしたか? 真に探求する心があれば、あなたは彼のそんな行為からも、貴重な教えを学んだはずなのです」
今日の天使たちの言葉は、思いの外キツイものであったが、それでも真実をズバリ指摘されて、私は何も言い返す言葉をもたなかった。