チベット女性詩集
 ―現代チベットを代表する7人・27選―
ゾンシュクキ/デキ・ドルマ 他 <チベット>
海老原志穂 編訳

( 現代アジアの女性作家秀作シリーズ )
段々社(発行) 星雲社(発売)
本体2,000円 四六判 上製 208頁
発行日 2023年3月31日
ISBN978-4-434-31809-2 C0397

定価2,200円(本体2,000円)
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フェミニズム運動は「詩」からはじまった!

チベットを代表する7人の女性詩人が長い沈黙をうち破り、自らの人生を力強く詠んだ詩(うた)の世界。80年代のフェミニズム運動の潮流をうけ、ジェンダーによる社会の偏見や、妊娠・出産する性である自らの身体を描き、女であることを讃美し、労働の重圧や、亡命への決意をつづり、これから歩むべき道を模索する。詩は彼女たちが道を切り拓くために必要な「武器」でもあった。本書の詩を通してみえてくる彼女たちの姿には、わたしたちの歩んできた道もかさね合わされる。知られざるチベットの女性事情をつたえる7つのコラムを併載。本文の挿絵は、司馬遼太郎・原作『ペルシャの幻術師』、『月と金のシャングリラ』で話題の漫画家・蔵西が担当。


【 著者紹介 】

ゾンシュクキ

1974年、中国青海省貴南県(チベットの伝統的な地域区分では東北チベットのマンラと呼ばれる地域に該当する)に生まれる。十代の終わりから詩の創作を始める。これまでに百編以上の詩をチベット語文芸誌に発表。詩集に『珊瑚の運命』(1999)、『やむことのない流れ』(2003)、『墓場』(2006)がある。群を抜いた表現力で海外のチベット文学研究者らの注目も集めている。2002年に家族とともにチベットを離れ、インド北部のダラムサラに亡命。13年間のインド滞在を経て、現在はオーストラリアのメルボルン在住。



ゾンシュクキ

デキ・ドルマ

1967年、中国青海省河南モンゴル族自治県(東北チベッ トのソクゾン)に生まれる。民族籍はモンゴル族だが、母語はチベット語。創作活動もチベット語で行う。地元の民族中学校在学時は、漢語とチベット語の教師が作家 のツェラン・トンドップ、化学の教師が詩人のジャンプだった。創作の面でこの2人の男性作家から大きな影響を 受けた。詩を書き始めたのもこの頃。大学卒業後、中学校の教師をしていたが、黄南州紀律検査員会を経て、現在は婦女連合会に勤務。娘、妻、そして、母の視点で書かれた詩を多数発表している。詩集に『草原の愛』(2011)がある。



デキ・ドルマ

オジュクキ

1983年、中国青海省貴徳県(東北チベットのティカ) の農村に生まれる。父親はチベット語教師として地元の 中学校で長年、チベット文化の教育に熱意を傾けてきた。その父の影響を強く受け、読書の習慣が身についた。ちなみに父の教え子の一人が人気作家のラシャムジャ(邦訳書に『雪を待つ』『路上の陽光』)。大学在 学中から自由詩や散文の創作を始め、2011年、優れたチベット人女性作家に贈られる祥母文学賞受賞。自身の内面に目を向け、揺れ動く複雑な心情を丁寧な言 葉で表現した詩を数多く発表。好きなチベットの詩人はジュ・カザン。好きな日本の作品は村上春樹『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』、稲盛和夫『生き方』。現在、 チベット医として青海省チベット医薬研究院勤務。

オジュクキ

ホワモ

1966年、中国青海省剛察県(東北チベットのカンツァ)に生まれる。中学校時代、高僧のもとで古典文法学、 詩学、仏教論理学などチベット文化の基礎を学ぶ。 1994年に西北民族学院(現・西北民族大学)に入学、 トルシェ高僧や文法学の大家ホワリ・サンジェ教授 らに教えを受ける。修士課程修了後、同大学で教鞭をとるようになり、現在は教授。詩は十代から書き始め、これまでに詩、論文、随筆など多数を発表。 詩集に『激しく躍動する文字たち』(2012)。チベット 語による初の女性詩アンソロジーの編集など女性文学 の地位向上に尽力し、チベットにおけるフェミニズム 運動のリーダー的存在である。本書コラム「フェミニ ズム運動は詩からはじまった」参照。


ホワモ

トクセー・ラモ

1987年、中国チベット自治区ラサ市林周県(中央 チベットのペンボ)の名刹として名高いレティン寺に近い町に生まれる。チベット語文芸誌『カンゲン・メト』を読んで詩の創作を志す勇気をもらい、チベット医 学院卒業の頃から様々なチベット文芸誌に詩や散文 を発表。2011年に祥母文学賞受賞。詩集に『チベッ トの女』(2014)がある。チベットを深く愛するがゆえにチベットを憂える、その複雑な心情を時にまっすぐで力強く、時に繊細な言葉で綴る。チベット現代文学の父ともいわれるトンドゥプジャの詩や小説、 現在活躍中の詩人ジュ・カザンの作品を愛読。好きな日本文学は村上春樹『ノルウェイの森』。現在、チベット医としてラサ市内の中学校に勤務。


トクセー・ラモ

カワ・ラモ

1978年、中国青海省天峻県(東北チベットのテムチェン) の牧畜村に生まれる。子供の頃からチベット語の文芸誌 を愛読。創作活動を始めたのは大学卒業後2,3年経ってから。これまでに詩や散文が『カンゲン・メト』『ダンチャル』など様々な文芸誌に掲載される。詩には恋愛や結婚、女性の美しさを讃美したもの、チベット文化への愛情をテーマにしたものが多い。平易な表現と繰り返しを多用したリズミカルな文体が特徴。詩集に『雪の耳飾り』(2014)。2015年、優れた詩作品に送られるカンゲン・メト文学賞を受賞。現在は中学校の教員としてチベット語を教えるかたわら、詩の創作にいそしんでいる。



カワ・ラモ

チメ

1967年、中国青海省同仁県(東北チベットのレプコン)の半農半牧の村に生まれる。1987年に青海民族学院(現・青海民族大学)チベット語学部卒業後、30年以上チベット語教師として地元の中学校に勤める。30歳の頃から創作を始め、多くのチベット語文芸誌に作品を発表。詩集に『月の夢』(2012)、『水の青春』(2016) がある。2022年、アメリカのバージニア大学とハーバード大学に招かれ、自身の創作とチベット人女性の文芸活動について講演を行う。ダンチャル文学賞、カンゲン・メト文学賞、野生ヤク文学賞などチベット文学界の主要な文学賞の受賞歴多数。

 


チメ


【訳者からのメッセージ】

『チベット女性詩集 ―現代チベットを代表する7人・27選―』

ゾンシュクキ/ホワモ/チメ 他著(海老原志穂 編訳)

 本書は、チベットを代表する7人の女性詩人による現代詩27篇を選び、チベット語から翻訳した日本オリジナルのアンソロジーです。チベット女性詩としてはもちろん、チベット語から日本語に翻訳された現代詩としてはおそらく初の詩集となります。

 収録した作品ひとつひとつをよんでも味わい深いですが、これらの詩を「チベット女性詩の展開」という文脈の中で見ると、彼女たちがどのような制約のもとで創作を行なってきたのかがみえてきます。

 1200年もの間、仏教によって色づけられてきたチベットでは、文学作品は男性(主に僧侶)の手で書かれてきました。
 男性中心的な文学環境の中で、彼女たちが詩を「武器」として、どのような挑戦を行なってきたのか、テーマ別の7つのコラムを手がかりにぜひ読み解いてみてください。

 漫画家・絵地図作家の蔵西氏がチベット各地で描いてきたスケッチの数々も、チベット女性詩をめぐる旅の良きおともになってくれることでしょう。

      2023年 春
海老原 志穂(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所フェロー)


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