オ・ジョンヒ 著 (韓国)
文茶影 訳

( アジア文学館シリ−ズ )
段々社(発行)  星雲社(発売)
本体 1,800円 四六判 170頁
発行日 2015年11月
ISBN 978-4-434-21029-7

定価(本体1,800円+税)
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親に置き去りにされた子供を描く

宇宙で一番美しい娘「宇美(ウミ)」、一番カッコイイ男「宇一(ウイル)」と名付けられた姉と弟。だが母は貧困と父の暴力に耐えかねて家を去り、父は出稼ぎに出たまま戻らない。孤独と絶望の淵で、幼いふたりはどう生きるのか? 彼らの未来は?――宇美の容赦ない目で不安定で不条理な現代社会を浮き彫りにし、2003年リベラトゥル賞(独)受賞。独・仏・英・露語など10ヵ国語に翻訳。



【 著者紹介 】

オ・ジョンヒ(呉貞姫)

1947年ソウル生まれ。大学在学中に短編「玩具店の女」が中央日報紙の「新春文芸」(新人文学賞)に入選し文壇デビュー。79年「夜のゲーム」で李箱(イ・サン)文学賞、82年「銅鏡」で東仁(トンイン)文学賞と、韓国の二大文学賞を受賞。長編小説『鳥』(本書)で2003年ドイツのリベラトゥル賞受賞。韓国人作家として初めて海外の文学賞を受賞する。『鳥』は独・仏・英語など10カ国語に翻訳されている。
現在、東仁文学賞の審査員。寡作で知られるが、短編集『豚の夢』『秋の女』を上梓するなど、韓国を代表する作家のひとりとして今なお活躍中である。

オ・ジョンヒ


【訳者からのメッセージ】

『鳥』について

<オ・ジョンヒ著/文茶影訳>

 『鳥』は韓国の著名な女性作家 オ・ジョンヒが初めて手がけた長編小説である。
 幼い姉弟に、宇宙で一番美しい娘になるように「宇美(ウミ)」、一番カッコイイ男になるように「宇一(ウイル)」と名づけてくれた母親は、貧困と夫の暴力から家を出てしまい、父親も出稼ぎに出て戻らない。親戚の家をたらい回しにされた挙句、ワケありの住人たちが暮らす長屋で、父が母親代わりに連れてきた若い女と新しい生活が始まる……。
 宇美の目に映る大人たち――やもめ暮らしのトラック運転手、同性愛の夫婦、身を隠している謎の男、大家のおばあさんと身体が不自由な娘夫婦をはじめ、学校の先生やボランティアの児童相談員や鍼師など――の姿を、宇美の冷徹な目を通して描く。社会から取り残された孤独な少女の目で世の中を見せることによって、家族や周辺の社会のあり方を問う。

 オ・ジョンヒは1947年ソウル生まれ。大学2年生の時に登壇し、韓国の二大文学賞「李箱文学賞」「東仁文学賞」をはじめ数々の文学賞を受賞、現在「東仁文学賞」の審査員を務める韓国文学界の重鎮である。寡作な作家としても知られており、次なる作品を待ち望む読者は多い。
 『鳥』は2003年にドイツで第16回リベラトゥル賞を受賞し、韓国で初めて外国の文学賞に輝いたオ・ジョンヒの功績は高く評価された。この受賞により韓国文学を代表する作家としてオ・ジョンヒの名は海外で知られるようになる。『鳥』はドイツ語のほかフランス語、英語、オランダ語、ロシア語、スペイン語、バスク語、ノルウェー語、クロアチア語、日本語と、すでに10カ国語に翻訳されているが、アジア・アフリカなど、より多くの国の言語に翻訳、紹介されてほしい作品である。

 1988年の巣鴨子供置き去り事件を題材とした映画「誰も知らない」(是枝裕和監督、2004)が公開された時も衝撃的だったが、本書『鳥』の出版を控えた今年6月、中国貴州省の貧困地域で兄妹4人が農薬を飲んで自殺したというショッキングなニュースが伝えられた。母親は2年前に家を出ており、父親は出稼ぎで不在、孤独な暮らしを強いられていた長男が、豚の世話などをしながら幼い妹たちの面倒を見ていたという。小学校5年生の宇美と幼い宇一の境遇と変わらない現実がそこにあることに、再び衝撃を受けた。
 「社会が不安で家庭が崩壊する時、最も大きな犠牲者は防御能力のない子供たちです。見捨てられ周りの大人たちの無関心のうちに放置されて、壊れていく子供の魂は、成長して私たちの暗くつらい未来になることを、この小説を通して言いたかったのです」。リベラトゥル賞授賞式の挨拶で語った著者の言葉が重く感じられる。

 日韓国交正常化50周年の今年、オ・ジョンヒの代表的な作品である本書を日本の読者にお届けできることはたいへん意義深く思われる。ドラマや映画、音楽の世界だけでなく、韓国の文学にも関心を持っていただける一助となれば幸いである。

      2015年 秋
文 茶影(翻訳者)