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番外編1 : 農民あおい
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この地で百姓仕事をする際に、感じる1つのプレッシャーがある。それは「埼玉の農民の恥さらしにならないようにせねば」というようなものだ。
みんな実によく他人の田畑の様子を見ているし、私たちは、村民にはどうしても「埼玉県人の代表」のように見られがちだ。私たちのようないいかげんな人間を「代表」にしてしまった埼玉の人には申し訳ないが、ともかく埼玉の「農業技術の粋」と「百姓魂」とを村民に示していかねば、とあせった。
しかし、もともとたいしたキャリアもないうえに、気象、土壌の条件が大きく異なる地での農業、「全埼玉農民を代表」するどころか、「全日本ダメ農民コンテストで上位入賞」してしまうような、惨めな出来の田畑をさらしてしまった。
埼玉の時のクセで、まだ雪深い3月に野菜の種を買いに行き、農協職員の失笑をかったり、本来ばら蒔きするソバを、畝立てして一列にまいたり、小豆を遅くまきすぎて霜にダメにしたりと、「てえしたことはねえな」という評価をほぼ固めるだけの失敗を次々にやらかした。
あおいは僕よりさらに素人というか、全くゼロからのスタートだった。野菜の苗を見ても何だかわからないし、ジャガイモは種芋をサツマイモは苗を植えるというようなことも知らなかった。みようみまねで僕の言った通りにやるだけだ。トラクターをやらせたら、クネクネと曲がってしまい、後で直すのに苦労した。僕は思うようにいかない農作業への苛立ちをしばしばあおいにぶつけた。「もっとテキパキやれ!」と怒鳴っては、あおいをいじけさせた。最初の田植えの時、あおいが植えた部分を翌日に僕が大幅に補植してしまった時は、あおいは畔にしゃがんで泣き出した。
2年目に入り、それぞれの畑のクセなどもわかってくると、作物の成長も大分マシになってきた。あおいも要領が飲みこめてきて、クワや管理機をうまく使いこなせるようになった。畔ぬりなども器用に淡々と進めていく。彼女は作業のスピードこそないが、ずっと同じ作業を続けられる持久性が優れている。「重いものを運ぶ」といった、本来は男向きの仕事にも力を発揮し、かなり助けられた。
村のばあちゃんたちからも「あの嫁さんはあそこの草を1人で片付けた」、「手袋もしないでやって、昔の人みたいだ」と評価されるようになった。泥だらけになっても、鶏ふんなどで汚れても平気という、農民必須の条件も完璧に満たしている。僕が畑まで車で行こうとすると、「道具を担いで歩いて行けるよ、ガソリンの節約!」などとつきあげられる。
「動物は嫌い」と言っていたのに、今では鶏やヤギの世話も主力になりつつある(この件はまたの回で詳しく)。
大宮で知り合ったころ、僕の農作業の話しを「へえ、そうなんだあ!?」と感心して聞いていたあおい。今では「あのままじゃ玉ねぎ腐っちゃうよ、採って乾かそう!」と彼女にせっつかれている。
2人でもっともっと経験をつんで、埼玉県人の名誉を少しでも回復しよう!
(2001.7.13)
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