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その6 : うちのニワトリを食べる
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朝から気が重かった。
今日は村の料理人、ロクさんに鶏のさばき方を教えてもらうことになっている。いざとなると、やはりかわいそうだし、血なまぐさい光景を見るのもイヤなものだ。二人とも口数が少ない。
やがてロクさん到着。僕はつとめて無造作に手近な2羽をつかまえる。いつものようにおとなしいのが余計あわれに思われる。ロクさんはあっという間に足と翼の下にヒモをかけ、動きを封じてしまった。
「ここを切って血抜きをするんだよ」ナイフを首の横にあてがう。もう見ていられない気分だが、平静を装い「ははあ」と弱い返事をする。動脈が切断される瞬間、鶏は激しく足をバタつかせた。鮮血が目に入ったかと思うと、ロクさんは鶏を首から逆さまに雪の中に突っ込んだ。雪から突き出した足がさかんに動く。
「さあ、これで30分ほどお茶でも飲もう」
家の中に入る。ここまであまりに手早く、スマートに進行したので、ともかくホっとする。あおいにも笑顔が戻っている。
お茶を飲み、再び現場に行くと、鶏の足の動きは止まっており、絶命した様子。温かいうちに3人で羽をむしる。僕はヤケクソ気味にエイエイと力まかせにやり過ぎて、皮までいっしょにむけて、黄色い皮下脂肪がとび出し、その度に気が遠くなりそうになる。
あおいは楽しくてしようがないといった風に、ロクさんとしゃべりながらどんどんむしっていく。いわゆる「トリはだ」の肉塊になってくると「チキンだ、チキンだ、うまそう〜!」とはしゃぎ始めた。いつもながらたいした奴だ。ロクさんがゴキっと骨をはずし、モモ肉を雪の上に放ると「あっ、これクリスマスの時に食べたいな」と言い、ササミを切り取ると、「あっ、ササミカツにして食べたいな」と言う。もう、この人の中では、あのかわいい鶏は完全に単なる食品になってしまったようだった。
翌日、セリやキノコ、ネギなどの入った水炊きを作ってもらい、我が家の鶏を賞味した。もう3才の鶏なので、若鶏のようなやわらかさはないが、味のある、しっかりとした肉だった。僕はおわんの中のトリ肉が自分の飼っていた鶏だという事実がまだ納得できない気がして 、どこかとまどっていた。
あおいは例によって「うまい、うまい」と何杯もおかわりしていたが。
(2000.8.4)
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