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その8 : オカラを取られたトリ
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村の豆腐屋さんの前を通りかかり、店先に大きな袋が3つ、無造作に出されているのを見つけ、二人同時に「もしや!」と顔を見合わせ、車を止めた。
確かにオカラだ。ニワトリのエサ調達に苦慮していた私たちにはノドから手が出るような品だ。
店のおばさんは快く、タダ同然の値段で大豆の20キロ袋いっぱいのオカラを分けてくれた。ホクホク顔で、車に積み込み、家路を急ぐ。
「はあ〜」と、あおいがため息をつく。「うまそうなにおい。」
「食ってみれば。」
「ほんと?」
あおいは本当に後部席のオカラに手を伸ばし、食べ始めた。時折、僕の口にも一つまみ入れる。
確かにイケル!まだ温かく、大豆の甘いにおいのするオカラは、玄米以外の食物に飢えていた私たちの、ささくれだった心を優しく包みこんだ。
「こんなうまいものをトリにやってたまるか。」当初の目的を完全に忘れた私たちは、この大量のオカラをどのようにおいしく食べるか、考え始めた。
まずは小麦粉とマーガリンを混ぜ、塩味をつけて焼いた「オカラホットビスケット」。これは表面がカリッとして中はしっとりしたなかなかのもので、その後もハイキングの携帯食として活躍した。中にチョコレート(村の寄り合いの残り物)のかけらを入れるなどの工夫もした。
続いては、玉ねぎを炒めて、塩・コショウし焼いた「オカラ・ハンバーグ」。キャベツのセン切りを添えると、これはもはや完璧なハンバーグだった。我が家にこうしたナイフとフォークが似合いそうな料理の出現は驚異だった。
また、保存性をあげるためにフライパンでカラ炒りしたら、パン粉そっくりになった。
これでメンチカツが揚げられる!」と、あおい。中身は当然「オカラ・ハンバーグ」だから、中も外もオカラづくしの大変なまがいものである。おまけに衣がどんどんはがれてボロボロ状態であったが、二人で笑いながら夢中で食べた。(そしてその間、トリは無視されていた。)
その後も豆腐屋さんで買うのは、豆腐でも油揚げでもなく「オカラ」。
実際にこの店の豆腐がえらくうまいことがわかったのは、始めて立ち寄った時から10ヶ月もたってからだった。
(2000.9.3)
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