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その15 : アケビのヤケ食い
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空のリュックを背負い、僕とあおいは山道を登って行った。「今日はやるぞ!」という意気に燃えていた。
去年の秋は全くアケビを採ることができなかった。大家さんの子どもたちがたくさん採ったのを分けてもらったのが最初で最後。自分たちで山に入っても、1つも見つけられなかった。
「子どもに負けてたまるか」というような大人げないセリフで自らをあおりつつ、ヤブのツルをキョロキョロと見る。今年は図鑑で調べて、アケビの葉っぱの形、ツルの特徴、「日当たりの良い低地の雑木林のへりに多い」ことまで、ちゃあんとわかっているのだ・・・・。
途中、同じ部落のじいさまが後ろから自転車で来た。
「キノコ採りだか?」
「いえ、アケビでも採ってみようかと・・・」
「アケビなば、なんぼでもあるべ」
そう言うと、じいさまは僕らを追い越して行った。
湿っぽい杉林を抜けると明るい眺望がひらけた。谷地橋が遠くに見える。初めて見る風景だ。秋の陽がまぶしいくらいに枯葉の道を照らしている。ふと見ると道のまん中にアケビが3つ置いてある!
「さっきのおじいさんだ!」とあおいが叫ぶ。すると、この辺にあるはずだ・・・・。
あった、あった。意表をつかれるほど大きいのが、ブラーンと、パカッと割れて・・・・。写真を撮ってからこの白いミニ・バナナ風のものを半分づつ食べた。弾力と粘りを感じる。種を飲まないように舌で押しつぶす。上品な甘さが広がる。種が意外と多い。
それからはどんどん見つかった。ムラサキのやつが特に甘いこともわかった。低木のヤブが棚になっているようなところに集中しているようだった。2人のリュックにもいっぱいつめた。ニコニコ顔になってしまう。
帰ってから、ムラサキの美しい果皮をミソ炒めにし、夕食に出した。ほろ苦さのある、いいおかずになった。
数日後、あおいが東京へ遊びに行ってしまい、1人で退屈していた僕はまたアケビを求めて山に入った。「どうせ、あおいは東京でグルメ三昧をしてるんだ。1人だけにいい思いさせてたまるか」と、また大人げないセリフをつぶやきつつ(どうも怒りをバネに山登りをするクセがある)、先日のアケビ棚をめざした。
最盛期は過ぎていたが、まだけっこうある。次々と食べていった。やみくもにヤブに突入し、どんどん採った。もっと甘いやつをと、際限もなく、やがて日が傾くまで、もうアケビはイヤだと思うまで食べ続けた。
あおいが帰宅し、留守中、何をして過ごしていたかと聞くので「アケビのヤケ食い」と言うと、あおいは大笑いした。
「アケビのヤケ食いしてたのお?」死にそうなくらいに苦しがりながら笑っている。
「それって、私がいなくて、すごおく淋しくなっちゃって、それでそんなに食べちゃったの?ねえ、そう?」と、あおいはからかうように聞いた。しつこく、何度も。
「ねえ、そう?」
(2001.1.24)
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