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その10 : お菓子の家
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少女時代、絵本の中のお菓子の家を食い入るように見つめたというあおい。
5年生の時に、ピアノの先生にチョコレートパフェをおごってもらい、その甘美な味に驚愕し、将来、金銭的な自由を得たら、こういったおいしいものを気の済むまで食べまくろうと決意したという。
そして学生時代には、昼食にチョコパイを数個食べ、家での夕食の後にも一人でクリームパン、プリン、モナカアイスなどを食べるといった生活パターンを確立し、子どもの頃の夢をほぼ叶えた形になったと聞いている。
そんな彼女が、現在の「食品を買わない」生活に入ることになり、真っ先に心配したのが、「お菓子不足に耐えられるのか」という点だった。案の定、玄米食を始めて半月もすると「砂糖欠乏症」に陥り、極度のストレスからか、アトピーもなぜか悪化し、時には高熱を出して、大宮に帰ってケーキを食べたらケロリと治ってしまうということもあった。1人で帰った時など、僕の目の届かないのをいいことに、ケーキの食べ放題で20個も食べてきた。
心優しい友人たちは、そんな状況を察して、救援物資としてお菓子を送ってくれたりした。あおいは小包を開けると「わあ!」と狂喜し、「○○ちゃん、よくわかってるう!」などと叫んだ。そして厳格な計画を立て、少しずつ大事に食べ進んだ。
必ず、コーヒーかお茶をいれ、時間をかけて、ゆっくり食べていく。説明書、「しおり」の類も念入りに読む。包み紙についたクリーム、チョコは完全になめ取る。我が家では、どんな食べ物でも厳密に2等分して分け合っているが、ヨウカンを切ったときなど、どちらが大きいかで長いこと悩み、大きいと思われる方を取る。ポッキ―を折った時は、チョコクリームがついていない、手で持つ部分がある方を長めに折ることになっているので、かなり難しい選択になる。このケースでは多くの場合、彼女は短いがチョコ部分の多い上半分を選んでいるようだ。
やがて彼女は「お菓子を作る」という路線も開拓し始めた。すべて家にあるもので間に合わせる。サツマイモやカボチャのプディング、オカラのビスケット、煮リンゴ、そば粉のクレープなど。中でもニンジンのすりおろしを大量に入れたハードクッキーはなかなかのものだった。自然な甘味と全粒粉の歯ごたえが良く、僕も大好きになった。バジルを入れた塩味のものもイケた。
僕にとって現在の生活は、かつてなくお菓子がある生活ということになるのだが、あおいにしてみれば「かなり控えている」という感じらしい。そのせいか、体重もかなり減ったなどと言う。
「こういうヘルシーな食生活を続けていると、肉なんかあまり食べられなくなってくるかも。ケーキやドーナツも前ほど食べられなくなったみたい」と言うあおい。この前、二つに割ったクッキーの小さな方を彼女が選んだので、びっくりしたことがあった。こんなことはかつてなかったことだ。変化のきざしか・・・・・。
「だってたまにはこうやって恩にきせておかないと。本当に大好きなチョコレートか何かの時に確実に大きいほうがもらえなかったら大変だから。」
やはり彼女の本質は何も変わっていなかった。「お菓子の家」にあこがれた少女の心はずっと生き続けている。
(2000.10.30)
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