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その27 : カステラ・クリスマス
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12月24日の夕食時。
「うまいな、このカレー」
「さすがロクさんだよね。うちのトリのうま味が出てる」
「ところで、クリスマス・イブだろ?なんかそれらしいものはないのかねえ、うちには」
「ロースト・チキンとか、ケーキとか?」
「そう、そう」
「トリ肉はずいぶんシメて売ったから、もういいって感じ。だいたい肉なんて食べなくても、玄米には結構タンパク質があるっていう話だし」
「そういう問題かな」
「去年はうちのタマゴでシフォンケーキを作ったけど、この時期はタマゴは貴重だから。みんな販売用にしないと」
「そう言えばこのところタマゴを食ってないな」
「あっ、でもあれがある!FMゆーとぴあのハラダさんがくれたカステラ。あれに生クリームをぬれば・・・果物の缶詰も持ってこようっと」
あおいは、僕の誕生日のために買っておいた(が、忘れていた)生クリームをガランガランと泡立てはじめた。妙にテキパキしている。
「カステラ自体が甘いからクリームの砂糖は微量にしてくれ」
「うん、うん。生クリームで口をさっぱりさせる感じでね」
「さっぱり、はしないと思うけど」
クリームが泡立てば、もうほぼ完成だ。「フルーツカクテル」という色々な果物の缶詰をカステラの周りにあける。
「春ポン、これがクリスマスケーキだよ」
「ちょっと違うけどね」
「パン・パン!」
春が手を伸ばす。春には、こういうフワフワしたものはみな「パン」なのだ。
「おいちーね?」
「ちーね!」
「あれ、春ポン、まだ自分のがあるでしょ?何で私の方に来るの?ヤダなあ、この子、自分のが減るのがイヤなんじゃない?」
「それはおまえだろう」
「ほら、父ちゃんが春ポンに半分くれるって。やさしいねえ」
「そんなことは一言も言っていない!」
「パン、パン!」
などと大さわぎをしながら食べていると、ふいにあおいが立ち上がりローソクを持ってきた。電灯を消して、マッチで火をともす。
「ほら、なんかクリスマスって感じでしょ!」
「結構うす暗いな」
「充分明るいよ。ローソクで暮らせば電気代の節約になるんじゃ・・・」
「よせよ、火事になるぞ。でも昔の人の夜の暮らしってこんな感じだったんだろうな」
「あっ、春ポンの顔、見て!アハハハハ」
生クリームを口のまわりにベットリつけた春。
白いあごひげのサンタのよう・・・。
(2003.12.26)
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