その12 : キノコの道

キノコに関しては、さすがのあおいも慎重だった。有毒種との判別が難しい。二人でバカ笑いしたあげくに死んでしまうというのもイヤなので、山でキノコを見つけても持ち帰るのは自重していた。

やがて地元のキノコ採り名人から天然のナメコをいただいた。直径7〜8センチほどもあり、「これがナメコ?」とびっくり。

さっそくバター炒めに。と言っても、バターは高価で買えないので、197円のマーガリン、「ネオソフト」をフライパンにひとかたまり投入し、ナメコを入れ、最後にしょう油で味をつける。これをごはんにドドドッとかけて食べてみると、うまい!思わず二人で顔を見合わせる。キノコがこんなにうま味を発するものとは!山の枯れ葉の香りもする。それにこのヌメリ。これのお陰で、あっと言う間に玄米めしがノドを通過し、二人とも、ものすごいスピードで一杯目を食べつくした。

あおいは、「うまいのう。」などと平静をよそおうようにつぶやき、しかしかなり素早く、二杯目にナメコバターをぶっかける・・・。

ある日、僕は名人にキノコ・ポイントを教えていただくことになる。あおいが東京「ケーキ食べ放題」をやっていた日だ。紅葉も終盤の林道の奥に車を停め、カラマツ林の斜面を歩く。そこは名人のみぞ知るラクヨウモタシ(ハナイグチ)の群生地だった。ヌメリで光る、オレンジ色の大きなやつが次々と見つかる。

「もう少し奥の山さ行ってみるべ。」と次に案内されたのは、サワモタシ(ナラタケモドキ)のポイント。急勾配の沢ぎわの倒木に生えているので、かなりハードな沢登りの様相を呈してきた。僕の長靴は穴あきなので、靴下もずぶ濡れ。キノコを探すどころか、名人についていくのがやっと。村人はこんなところまで歩いてキノコを採りに来ているのか。「キノコの道も甘くない。」と息を切らしながら思った。

あおいが帰って来て、この話をすると、予想どおり、とてもうらやましがった。「行ってみたい。」と言うので、「甘くはないぞ。」と脅しつつ、キノコを知り尽くしたような顔で、例の山へ連れて行った。

ラクヨウの林に入ったが、なぜか全然見つからない。「今日はダメか。」と思っていると、「あっ、またあった!」とあおい。けっこう採れているようだ。こっちは気ばかりあせって、全くダメ。早くも息が切れてくる。あおいは快調に山を登りながら、「あ、まただ。おもしろーい。」などと言っている。山を歩くだけでも彼女にとってはじゅうぶん楽しいのに、収穫物もあるとなると、喜びが倍増しているようだった。


これはワカエ(ヒラタケ)


疲れきった僕は、「もう夕方だから、サワモタシの沢はやめとこう。」と宣言。あおいは残念そうに、真っ赤にもえる山を見上げながら、「行って見たかったのう。」とつぶやく。

(2000.11.25)
30. わびしすぎた「ワカメいため」
29. ざるそば地獄
28. カレーはまずく作れ
番外編7. “ステキ”な暮らしは
遠く

27. カステラ・クリスマス
26. お菓子のライバル
25. 桜エビさえあれば・・・
24. おかゆ生活を偲ぶ
23. 「ワカメ炒め」VS
「マヨネうどん」

番外編6. 倹約妻との日々
番外編5. 雪の中のニ人
番外編4. 婚前旅行の思ひ出
22. つわりの終わり
番外編3. カラマーゾフのヤギ
番外編2. 貧しい食卓
21. あおいのつわり
番外編1. 農民あおい
20. 「コーシー」中毒
19. 肉なし「肉まん」
18. コロッケにあこがれて
17. 雪を食べる
16. 幻の愛妻弁当
15. アケビのヤケ食い
14. 村のおやつ
13. 確信の食事ぶり
12. キノコの道
11. ろくさんのイワナ
10. お菓子の家
09. ついに肥料まで・・・
08. オカラを取られたトリ
07. 怒涛のスイカ
06. うちのニワトリを食べる
05. さまざまなモチ
04. 「お好み焼き」の連続食い
03. 栗ごはんの日々
02. 熊のスパゲティ
01. 「玄米きりたんぽ」の末路
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