|
番外編5 : 雪の中の二人
|
 |
早朝4時半、まだ真っ暗な国道。僕は埼玉に向けて車をとばしていた。友人の結婚パーティに出席するためだった。鶏とヤギがいるので、あおいは残念ながらひとり留守番だ。
「朝はちゃんと起きるんだぞ。」「うん。」「小麦粉焼きばかりじゃなくご飯も炊けよ。」「わかってるよお。」「あまりジダラクに過ごさないように・・・」我ながらやかましすぎるとは思ったが、やはりこれくらい言っておかないといけない。
トンネルをくぐり山形に入ると、空が白み出した。この辺りの雪はうちの村の半分くらいだ。が、やがて宮城県に入ると、鳴子あたりから雪が全くなくなり、久々に見る黒々とした土。古川で東北道に乗ると、もう初夏のようなカラリとした日差しで、車の中が暑くなった。
なんということだ!村は昨日も、まとまった雪だったのに。知らないうちに世間では、とっくに春を満喫していたのだ。ハメられた!いや、おかしいのはうちの村の方かも・・・。畑には草があるし、あぜにはバッケ(フキノトウ)すら見える。こんなところで、今年初バッケを見つけてしまうとは。あおいにも見せたかったな・・・。
この辺はラジオも良く入る。FMのヴァン・モリソン特集を夢中で聴いているうちに、もう那須高原のSAだ。あおいが珍しく早く起きて作ってくれたおにぎりを取り出す。カットわかめを乾いたままご飯に強引にまぜて握ったやつ。食べる頃にはわかめが適度に水分を吸収しているというアイデアははやりすぐれている。
あおいは家庭科の成績が1だったとか、家庭科の宿題の作品として提出したのが、木工のもの(釘も使ってあった)だったとかいう逸話があったりで、料理は下手だと考えられがちだが、実は違う。手近な材料を生かした臨機応変なアイデアと実践的な腕を、僕は高く評価している(ただあまりにも独創的なため、作っている過程を人に見られるのを極端に嫌う。まるで「つるのおんがえし」だとよく思う)。
おにぎりの他にタクアン、サンマのかば焼きの缶詰、ゆで卵、カリントウ、リンゴが入っていて、我が家のすべてを投入してくれたことがわかる。
2時前には大宮に着いた。おい、めい達は会う度に大きくなっていて、勉強や音楽などよく頑張っている様子で頼もしい。
あおいのお父さんはおみやげの酒を渡したその場で「おいしいねえ」と言いつつ、どんどん飲んでいった。
パーティは代官山でとり行われ、どっぷりと東成瀬の人間になっていた僕はその場のエレガントなムードにのまれて、スピーチもしどろもどろだった。
秋田への帰路。明るい陽射しはやはり古川までで、鳴子から空は暗くなり雪となった。村に入ると雪は一段と強くなり、路面も真っ白だ。
「まったくこの村は・・・」半ばあきれ、しかしなぜかとても懐かしいような、胸がしめつけられるよな気持ちで、小五里台の坂を一気に上った。2階まで雪にうずまった家の中には、妻あおいと腹の中の赤ん坊とが、静かに僕の帰宅を待っているはずだった。
(2002.3.15)
|
 |
|
|
|