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その2 : 熊のスパゲティ
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運良く「熊まつり」なるものに、参加することができた。
熊をしとめた家で、山の神に感謝し、次の猟を占う秘密めいた儀式とクマ肉のセリが行われる。本来は、ごく内輪のしかも女人禁制のものなのだそうだが、僕ら夫婦は特別に見せてもらえることになった。
10数名の「クマぶち(マタギ)」仲間が集う酒宴の末席に僕らは座った。本日の主役、ライフルで決定打を放った当家のご主人は上座、明らかにご満悦の様子。
「そろそろ始めるべ」と、クマ肉の大きな赤いカタマリが、背、右あばらなどの部分ごとにつりあげられ、「1万3千!」「1万4千」と次々に声がかかり、セリ落とされていく。
クマの赤ムケの頭部が出てきたときは、さすがに不気味で、あおいの様子をチラッとうかがった。
驚いたことに、彼女はこのグロテスクな状況にもかかわらずニコニコ顔なのだ。
なぜか大喜びしている。
そして「クマ、うまそう〜。早く食いたい〜。」と叫んでいる。
「恥ずかしい奴だな」とたしなめると、「だってー。クマ〜。」とわけのわからないことを言い、あげくの果てには、膝をたたきながら、「クーマッ、クーマッ」とコールし始めた。
やがて、クマ刺し身と、背骨付きのクマ肉汁が出された。クマ刺しには、ミソ、こうじかす、おろしニンニクを混ぜたものをつける。想像していたケモノ臭さは全くなく、柔らかく、食べやすい。クマ汁の方はミソ味で、文句なくうまかった。骨を手づかみでしゃぶるのも豪快だ。
あおいはかなりのスピードで食い進んでいた。僕が半分ほど食べたころには、ほぼ食べ終わり、汁の残りをゴクゴクと飲んでいた。
「地元の者でもクマは食えないという人が多いのに、たいしたもんだ」とほめられ(あきれられ)、「これはどうだ」と、今度は特別にクマのモツ煮が出された。コリコリと固い部分もある、かみごたえのあるモツ。僕は半分程しか食べられなかったが、酒を飲まないあおいは、たんたんと安定したペースで食べ続け、ついにクマ料理を一通り制覇した。
帰りには数千円分と思われるクマ肉をおみやげに頂いた。
数日後、僕はお昼のスパゲティに肉片が入っていることに気づいた。「あれっ、うちに肉なんてあったかな?」と食べ進むうちに、「−−まさか」。
「そう、クマ・スパにしてみたの。」とあおい。
「やっぱり、クマはうまいねえ。」
イタリアと秋田の異様なハーモニー。あおいは以前にも、頂いた鹿肉で「シカドリンク」なるものを作ったたいへんな女。
今度は「クマジャガ」や「ベアーカレー」もやってみたいそうだから恐れいる。
(2000.6)
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