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番外編7 : “ステキ”な暮らしは遠く
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よくテレビなんかに出てくる「田舎暮らし」の夫婦には、ある一定のイメージがあるような気がする。
バンダナとあごヒゲの、いかにもアクティブで、様々なこだわりがありそうな夫。清楚できちんとした身なりの奥さんは、お菓子作りが得意で、服なんかも自分で作ってしまう、というような。
そして、よく片付けられたログハウス調の家に、質素な家具。自分で焼いた茶わんと、手入れのゆきとどいた花いっぱいの庭・・・。都会の若い女性も思わず「ステキー!」と言ってしまうようなカントリー・ライフ。
――そういったイメージを抱いて、不意に誰かが我が家を訪れることを、僕らは非常に怖れている。
ひ弱そうな男と髪ボサボサの女が、うす汚い恰好で、「ステキ」とは程遠い、その場しのぎの貧乏生活を送っているだけなのだから。
僕は大工仕事、機械関係にヨワく、あおいは家庭科が大の苦手だったというダメ夫婦。しかも二人とも掃除ギライ、というか、散らかっている状態が全く気にならない性分だから、始末が悪い。破れたままの障子、物で埋まっている部屋、様々な所に置き去りにされている、あおいの食べた柿のヘタ等々は、やはり他人にはあまり見られたくない。
あわててドタバタと片付けたり、玄関先でごかんべん願ったことが、何回あったことか。
このままではいけない、と時々意を決して提案がなされてきた。
「これから毎日、朝食後に掃除をしよう!」
「えっ、毎日? 月・水・金でどう?」
「しかも食事の後は、すぐに食器を洗うことにする。」
「ええーーっ! ちょっとハード過ぎない?」
「世間では当たり前のことだよ。やった日はカレンダーに丸印をつけることにしよう。」
そして4〜5日後には、あえなく部屋は再びメチャクチャになり、柿のヘタが散乱しているということになってしまう。お客さんを玄関払いしながら、「なんて、いつもダメなんだ。」と自らを呪う。
ワンゲル部出身のあおいにとっては、この家も山小屋かテントと同じなのかも知れない。
この山里での冬、風雪をさけてビバークできる暖かい場所があるだけでも有難い・・・。コッヘルやヘッドランプがそこらに転がっていても気にならないし、まして「ステキ」な場所である必要なんかない、というような。
(2003.1 紙版「んだすか。」に掲載)
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