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その32 : ろくさんに養われて
2004.11.27
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紅葉でにぎわう須川温泉での焼イワナ売りから帰ったろくさんが、今日も夕方に立ち寄った。いろいろおみやげを持って。
「おーい、春ちゃん。イワナに焼きトリ、あんまん、フランクフルトもあるぞ。食え、食え」
春は早くもイワナの串を両手に持って、かけ出した(これをろくさんは「イワナおどり」と呼んでいる)。
「いつもありがとう、ろくさん。でもあおいがまだトリエサやってるんで・・・」
「ん?」
「あおいにこれらをひととおり見せてからでないと、あとでコジれますから・・」
「なんだ、そんなにコジれるのか」
「絶対コジれます。特にそのあんまんあたりは・・」
そこへあおいが戻ってきて、
「あっ、なに?春があんまん食べてる!ちょっと、これどういうこと!?」
あおいの姿を見た春は、あわててあんまんを口に押しこんだ。
「ええやんか(ろくさんの口ぐせ)。車に肉まんもあるよ」
「今はあんまんの気分だったの!あっ、春がイワナもかじってるう!ほんとうに食い意地が張っているんだから・・・。ろくさんがいいもの持ってくるから、今夜のおかずの子イモちゃん(クズジャガイモの丸揚げ。我が家の定番メニュー)がかすんじゃうじゃない」
「いや、春ちゃんがほんとに喜んで食うからさあ」
「春はそんなおいしいもの(肉、魚、お菓子のこと)は知らないほうが幸せなんだから。春ぽん、そのイワナ食べないなら、母ちゃんが食べてあげるよ」
こういうセリフは一般には、子どもにテキパキ食べるのを促すためのおどしとして使われるが、あおいの場合はただ本当に自分が食べたいのだ。
「はるがたべるの!おしゃかな。」
「本当に食べられるの?もう春ぽんは眠たいんじゃない?ニ階で寝る?」
「ねらないの!」
「ほんとうに強情だよねぇ、意地きたないし・・・。ろくさんが毎日いろいろおかずを持ってきてくれるんなら、何も作らないでご飯だけ炊いて待ってようかな」
「おい、オレはあんたがたを養っているんじゃないぞ」
「あっ、春がフランクフルトも!もうっ!」
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